さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

ペキンパーの闇雲にセンチメンタルな一作『砂漠の流れ者』

先日からサム・ペキンパーについて書き始めたわけであるが、『ワイルドバンチ』のような流血が一つの特徴といえるが、必ずしもそれだけではないのだ。 bosszaru21.hatenablog.com 時代遅れになっていく男たちが主要なテーマであるからして、どうしてもセンチ…

時代に取り残された男たちを撮り続けたサム・ペキンパーの傑作西部劇『ワイルドバンチ』

先日、1970年ころから出現したオルタナティブな西部劇について少し紹介した。このジャンルは僕が西部劇の中で最も好きな作品をたくさん含んでいる。bosszaru21.hatenablog.com そしてこの分野に多大なる貢献をした映画監督がサム・ペキンパーである。 ペキン…

失われた西部ものの佳作『モンテ・ウォルシュ』

西部劇は山ほど見てきたが、それでもまだ見ていないのはまだまだあって、その中には重要な作品もあったりする。 先日、TSUTAYAでなんとなく借りた『モンテ・ウォルシュ』(1970)もそうだ。1970年ころになると、ベトナム戦争を背景とした厭世観、強いアメリカ…

黒部ダムにいってしまったのだ

先日『黒部の太陽』を見直したのは黒部ダム初訪問のためだった。 そして今日ついに行ってきたのだ。黒部川は北アルプスのまんなかを走っていて両岸は3000m級の急峻な山々が位置している。なのでダムを作れば貯水量と落差を稼げるということで大正期から開発…

『黒部の太陽』はめちゃエモい映画だった

1968年日活製作。戦後の一大事業である黒部第4ダム建設にまつわるドラマ。 関西電力は関西地区の電力不足に対応すべく黒部川上流にアーチ型の大ダム建設を予定する。切り立った峡谷は貯水量、落差ともこれ以上ない立地であった。しかしそれ故に資材の搬入が…

ジェシー・ジェームズものの傑作『地獄への道』

西部劇には実在の人物をモデルにした作品が沢山ある。そういったモデルのうち最も有名なのはビリー・ザ・キッドとワイアット・アープであろう。それに匹敵する人気を誇るのがジェシー・ジェームズである。2008年にブラッド・ピット主演で『ジェシー・ジェー…

西部劇が本格的に始まるのは?

一番最初の西部劇は先日紹介したとおり1903年の『大列車強盗』であった。これは映画草創期の作品全般にいえることだが、ほとんどが短編で長くても60分くらいだった。1920年代終わりに映像と音声を同期した、いわゆるトーキーの長編が商業ベースに乗るように…

西部劇とはなんなのか

そもそも西部劇ってなんなのかというと、19世紀後半のアメリカ合衆国中西部を舞台にした映画だ。ほとんどは南北戦争後から1890年のフロンティア消滅宣言までを舞台にしている。 映画の黎明期から西部劇は制作されている、一番初めのは1903年の『大列車強盗』…

『リオ・ブラボー』あるいは西部劇と私のかかわり

私が西部劇に関心をもったのは25年ほど前、高校1年生くらいであったろうか。黒歴史なのであまり言いたくはないのだが、当時は落合信彦にはまっていたのである。今は落合陽一氏のお父上ということのほうがよく知られているかもしれないが、最盛期の落合氏はも…

『若者殺しの時代』

若さは特権とか最大の資産といわれるが、若者が得する時代もあれば損する時代もある。もちろん個体差も大きい。本書は個別の事情は脇において、一般的に若者が得であったのは昭和後期から昭和の終わりくらいで、現代は損する時代であるとする。そしてその画…

『学力の経済学』

教育の効果についてさまざまな経済学的な研究を紹介する本。世の中にはこんなことを研究してる人もいるんだなあと感心した。まずは子供を褒美で釣るのはよいか? 結論は結果ではなくインプットにインセンティブを与えるべき。そしてそれは内的インセンティブ…

『損する結婚 儲かる離婚』は結婚する前に読むべし

恋愛工学で有名な藤沢数希氏の主に離婚について書いた本。最近、知り合いが離婚騒動に巻き込まれたようで久しぶりに読み直したのだ。内容は離婚にまつわる婚姻費用、養育費、財産分与、慰謝料などの問題から始まる。離婚に関わったことのある人間なら誰でも…

ラカンの入門書

若いころからラカンは避けて通ってきた。なんか用語が独特でわかりにくいから。しかし分析ツールというか、もののたとえとしてラカンを用いる本が多すぎて一回はあんちょこ本でもいいから触れておかないとなあってアラフォーにして思い至ったのである。いく…

千野帽子『人はなぜ物語を求めるのか』の感想。

新刊『物語は人生を救うのか』が話題の千野帽子さんの前著。けっこうおすすめされていたので読んだのだが、新刊に備えておさらい。平易に書かれていて、一気に読めるのに奥が深い。以下、ざっとして私の理解にもとづく感想文。一貫性を担保するものとしての…

呉善花『韓国併合への道』を読んで

なにやら例の隣の国とのゴタゴタがかつてないほどにエスカレートしているようなので積ん読になってた本書をようやっと読んだのである。知日派の韓国人(現在は日本国籍)である呉善花氏による韓国近代史の新書。おすすめしている人がけっこういたので買ったの…

『仕事ができて、小金もある。でも、恋愛だけは土俵にすら上がれてないんだ、私は。』

ながらく恋愛系ブロガーとして活躍しておられる桐谷ヨウさんの女性向け恋愛指南書。凡百の恋愛本と異なり、コミュニケーション論といった趣があり、男性やすでに結婚している人たちにもおすすめできる一冊だ。なによりチャラさと優しさの同居した語り口がい…

水野敬也『スパルタ婚活塾』は30過ぎの婚活女性必読

本書は大ヒットした男性向け恋愛マニュアル『LOVE理論』の女性版である。対象は適齢期をすぎてしまったやや厳し目の女性のようだ。水野敬也さんらしい厳しくも楽しい語り口が本書の醍醐味で嫌味を感じることなくスイスイ読める。また男性目線で語られている…

『帳簿の世界史』感想

会計や帳簿という観点から世界史(正確には西洋史だが)を見直すという非常に興味深い書物。多数の絵画を引用しており、楽しく読める。以下は読書ノート。 古代より会計がおこなわれていたが、ローマ皇帝アウグストゥスが帳簿を公開して自らの偉業を誇示した。…

日本刀の展示みてきたよ

佐川美術館に日本の名刀展見に行ってきた。むかし一瞬だけど刀剣乱舞やってて少し興味があったのだ。 刀剣乱舞とのコラボということだったが、とうらぶ要素は少なめ。 とりあえずたくさんの日本刀をこの目で見ることができて楽しかった。細かい違いとかはよ…

瀧本哲史さんが亡くなられたとか

昨日くらいから著述家の瀧本哲史先生が亡くなられたという噂が流れていたが、どうやら本当のようだ。まだまだ活躍できる年齢での訃報を聞くたびにとても残念な気持ちになる。僕はかつて意識高かりしころ何冊か著作を買って読んだ。『僕は君たちに武器を配り…

フレンチ・ノワールの新作『パリ、憎しみという名の罠』

ネオ・フレンチ・ノワールの巨匠オリヴィエ・マルシャルの新作『パリ、憎しみという名の罠』みた。倒産寸前の会社社長アントワーヌをブノワ・マジメルが演じる。多額の借金を抱えるアントワーヌは義父から子供の親権を渡すかわりに100万ユーロを与えるともち…

『イップ・マン 継承』

歴史に名を残す武術家イップ・マン(葉門)のドニー・イェンによる映画化シリーズ3作目。相変わらずドニー・イェンはかっこいいし、奥さん役の人はめちゃスタイルいいし、マイク・タイソン強すぎだ。なんといってもイップ・マンのライバルを演じたマックス・チ…

Amazon Prime『ザ・ボーイズ』むちゃおもしろい

先月からAmazon Primeで独占配信されている海外テレビドラマの『ザ・ボーイズ』にはまってしまった。現在第一シーズン(全8話、各1時間程度)のみ配信されているが、すでに第2シーズンの配信も決定されているとのこと。舞台は現代のアメリカで、(どこかでみた…

『日産vs. ゴーン 支配と暗闘の20年』

昨年11月に金融商品取引法違反容疑などで逮捕され日産会長職を終われ、現在は保釈中のカルロス・ゴーン氏について、長らく自動車業界のジャーナリストをやってきた著者がえがく。戦前の日産コンツェルンを源流とする日産自動車は、戦後は独裁とクーデターを2…

『途上国の旅 開発経済のナラティブ』読書ノート

著者らは世界銀行、ODAなどで途上国の開発にかかわるなかで、初期条件が異なれば処方箋も異なるという当たり前の事実をナラティブベースでつまり、新古典派などのモデルに依らずに語る。11カ国の物語は非常に多様でその意味がよくわかる。 経済発展は政治制…

スターウォーズと私

私が初めてスターウォーズを見たのは5歳のときに『EP6 ジェダイの復讐』(いまは『ジェダイの帰還』)の封切りに父親に連れられて観に行ったときだ。ストーリーはよくわからなかったが、C3POやR2D2、ガジェットの質感、ライトセイバーの重力感のあるアクション…

表現の自由とは

今日はいろいろ疲れているので当たり障りないことでも。 僕はいわゆる表現の自由界隈とちがってある程度の表現規制はやむをえないと思う人間である。しかしどこまで規制されて、どこまで自由であるかの線引は極めて恣意的であり、おいそれと口に出せるもので…

7payがおいきになりました

7月のサービス開始早々にセキュリティガバガバのために不正使用が問題となった7payが9月末をもって終了するとのこと。7 & i ほどの大企業がこんなゆるゆるな管理をしていたのも驚きだが、SIerとして働いている友人たちの話から想像するとありえないことでは…

『勉強の哲学』感想など

勉強すればするほどキモくなる、ノリが悪くなる、会話が成立し難くなる、モテなくなるという現象はラディカルにものを考える人間にとっては深刻な問題でである。 それの解決策が示されているとは言い難いけど、はっきり勉強したらキモくなると言い切ったのは…

川北稔『イギリス繁栄のあとさき』の書評、Brexitにちなんで

イマニュエル・ウォーラーステイン『近代世界システム』の訳者として知られる川北稔氏の英国近代史概観。本書が書かれたのは1995年の阪神淡路大震災のあとくらい、つまりバブル崩壊が明確となる時期である。著者は19世紀末以降の大英帝国の衰退は20世紀末以…