さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

失われた西部ものの佳作『モンテ・ウォルシュ』

西部劇は山ほど見てきたが、それでもまだ見ていないのはまだまだあって、その中には重要な作品もあったりする。
先日、TSUTAYAでなんとなく借りた『モンテ・ウォルシュ』(1970)もそうだ。

1970年ころになると、ベトナム戦争を背景とした厭世観、強いアメリカの陰り、ヒッピーなどのカウンターカルチャーの隆盛が映画にも影響を与えるようになり、アメリカン・ニューシネマと呼ばれるジャンルが勃興することになる。西部劇においても正義の味方が悪者をやっつけるというような典型的なものとは異なった作品が撮られるようになるのである。『さすらいのカウボーイ』のような厭世的な作品、『ワイルドバンチ』のような古いタイプの悪党の終わりを描く作品、『ソルジャーブルー』のようなインディアンに同情的な作品などである。

モンテ・ウォルシュ』は変わっていく西部を懐かしむ作品である。主人公らはカウボーイである。鉄道の時代になりかつてのようなキャトルドライブにカウボーイはいらなくなる。なお西部劇の花形であるカウボーイが活躍していた期間は19世紀後半のごく短い時期だったというのが実際のようだ。主人公のリー・マービンはなんとか牧場に残ることができたが、ある者は狂死し、ある者は金物屋に転向し、解雇された若者は牛泥棒になる。リー・マービンはカウボーイとしての矜持をなんとか保つのだが、こうした哀しい時代の変化というか時代に取り残された男たちの悲哀をみせつけられるのだ。そして音楽がやたらとメロウで切ない気持ちが掻き立てられる。

見どころは、マービンが荒馬を馴らすシーンだ。カウボーイが荒馬を乗りこなそうとするのはよくあるのだが、普通はあっさり振り落とされて終わるか、簡単に手なづけてしまうかのどちらかだ。本作はそうではなくて、これでもかこれでもかと延々と馬が飛び跳ねるさまを映し続ける。

リー・マービンは西部劇の常連だが、アクの強い顔貌のため悪役が多い。主役を張っているのは本作以外では『キャット・バルー』くらいだろう。もちろん主役でも男くささ、とぼけた感じは健在である。
ジャック・パランスはどうしても『シェーン』の悪者ガンマンの酷薄なイメージが強い。それだけに本作では終始ニコニコしている彼をみていると嬉しくなる。『シェーン』以外では、ロバート・アルドリッチの『攻撃』で上官に反抗する分隊長が印象深い。ちなみにその上官を演じているのはリー・マービンである。なおこの二作は落合信彦大先生のお墨付きでもあるので時間があればぜひ見ていただきたい。