明日に向かって撃ちたかったあのころ
『明日に向かって撃て』は1900年ころに悪名を轟かせたブッチ・キャシディとサンダンス・キッドのお話である。1900年ころはもう西部開拓はとうに終わっており、昔風のアウトローは時代遅れになっていた。そういう気分はこの映画が製作されて1969年のアメリカの時代思潮ともあっていたのだろう。時代遅れアウトローものの傑作『ワイルドバンチ』も1969年の作品である。
ストーリーは長いこと強盗を繰り返してきた二人のアウトローが鉄道の雇った追跡隊に徐々に追い詰められていくという単純なものだ。そこに一人の女声を加えて友情物語に深みを与えている。なんといってもポール・ニューマンとロバート・レッドフォードはかっこよかったし、初めて観た高校生のころには男の友情っていいなあと素直に思ったものだ。ブッチ・キャシディもサンダンス・キッドも実際には30代後半のおっさんであり、自分もそういう年齢になってみると、こういう濃密な形で友情が続くことは稀なのだと知った。だってみんな結婚して子供できて付き合い悪くなるしね。
『雨にぬれても』の軽快なメロディと二人の軽妙な会話が楽しいが、基本的には追われるアウトローの物語なのでなんとなく暗い。アウトローを主役にするとヒーローらしからぬ面が表に出てしまうのはやむえないだろう。そして衝撃的なラストである。『俺たちに明日はない』のぱくりではないかと言われることもあるが、アイデアはそれ以前からあったらしい。
監督のジョージ・ロイ・ヒルは本作が実質的なデビュー作である。そしてポール・ニューマンとのコンビで『スティング』、『スラップショット』といった傑作をものにするのである。
ポール・ニューマンはビリー・ザ・キッドに扮した『左利きの拳銃』などいくつかの西部劇に出演しているが本作がベストロールであろう。西部劇以外も含めると『ハスラー』、『スティング』などもあり悩ましいところである。ロバート・レッドフォードもポール・ニューマンと並ぶ名優だが西部劇だと本作以外はぱっとしない。
本作はやはり若いうちに観ておいてよかったと思う。今なら犯罪者がなにを泣き言いってるんだとか思ってしまいそう。そういう意味で本作にお墨付きを与えてくれた落合信彦大先生には感謝してもしきれないのである。