時代に取り残された男たちを撮り続けたサム・ペキンパーの傑作西部劇『ワイルドバンチ』
先日、1970年ころから出現したオルタナティブな西部劇について少し紹介した。このジャンルは僕が西部劇の中で最も好きな作品をたくさん含んでいる。
そしてこの分野に多大なる貢献をした映画監督がサム・ペキンパーである。
ペキンパーといえばこの動画のように流血とスローモーションが代名詞となっているが、極めて叙情的な面も持っている作家である。とりわけ時代に置いてきぼりにされる男たちへの眼差しは優しい。本日はペキンパーの最も有名な作品であり、スローモーションの美学を決定づけた『ワイルドバンチ』を紹介したい。
私が『ワイルドバンチ』を初めて観たのは、1998年にワーナー・ブラザースの倉庫から発見されたフィルムから作られたメイキング映像『ワイルドバンチ アルバムインモンタージュ』の公開に際して、今はなきシネ・ヌーヴォ梅田の閉館記念としてリバイバル上映されたときである。20歳のときのあの衝撃は今でも忘れられず、DVDを購入して年に2回は見直しているのである。
舞台はメキシコ革命のころのテキサス州国境あたりである。ウィリアム・ホールデン率いる強盗団は鉄道の給料が集積されるとの情報をもとに銀行強盗を企てる。しかしこれは鉄道の仕組んだ罠であり、銀行の向かいの建物に陣取った、鉄道会社に雇われたならず者たちと対峙する。そこに禁酒同盟のデモ隊が通過、阿鼻叫喚の銃撃戦となる。この冒頭の襲撃シーンだけで映画の世界に引きずり込まれる。ペキンパーの十八番となるスローモーションゴアがいきなり炸裂するのだ。
ホールデン、アーネスト・ボーグナイン、ウォーレン・オーツ、ベン・ジョンソン、エンジェルはなんとか逃れるが、かつての仲間であるロバート・ライアン率いる追跡隊に追われることになる。この過程でもはや銃を振り回し、馬を駆るアウトローの時代は終焉を告げていることが知らされる。冒頭の銃撃戦とは打って変わってセンチメンタルな音楽が多用されてしんみりするのである。
ここで国境を超えてメキシコの地方軍閥の長マパッチの依頼を受けて米軍の列車を襲い、武器弾薬を奪う。ここからのライアンらの追跡が第2に見せ場である。
追跡をなんとか振り切って、戦利品をマパッチに届けるのであるが、やはり悪い人と関わりをもつと悪いことがおこる。強盗団で最年少のエンジェルの昔の女のゴタゴタから、ホールデンらはマパッチの軍勢と対決することになる。最後、死地に向かう4人、一瞬の静寂から一気に銃撃戦に突入する緊張感とカタルシスは何度観ても最高である。
ウィリアム・ホールデンはペキンパーの作品にはほとんど出演していないのだが、さすが名優である、ならず者を統率する初老のガンマンを見事に演じている。
アーネスト・ボーグナインは我々の世代には『超音速攻撃ヘリ エアーウルフ』の印象が強いが、『北国の帝王』などで男臭い役を演じてきた名バイプレイヤーである。本作でもそのいかつい顔貌をいかして迫力満点の演技をみせてくれる。
ウォーレン・オーツはペキンパー組の常連である。むさ苦しい容貌は本作でも健在である。
ベン・ジョンソンは数え切れないくらい西部劇で脇役を演じてきた名優である。オーツとコンビでどうしようもないおっさんを見事に演じている。
ロバート・ライアンはホールデンらへのシンパシーを隠しきれないところが最高である。彼が率いるならず者は、ホールデンたち以上にどうしようもない連中で、なんとか働かせようと苦労する。そのならず者の一人であるL・Q・ジョーンズはペキンパーの常連でクズっぷりを見事に発揮する。
とまあこんな感じでバイオレンスと叙情とホモソーシャル満載の本作は、ペキンパー入門として最適であるというほかない。