さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

『黒部の太陽』はめちゃエモい映画だった

1968年日活製作。戦後の一大事業である黒部第4ダム建設にまつわるドラマ。
関西電力は関西地区の電力不足に対応すべく黒部川上流にアーチ型の大ダム建設を予定する。切り立った峡谷は貯水量、落差ともこれ以上ない立地であった。しかしそれ故に資材の搬入が困難となる。そのため長野県側から黒部川へと通じる大トンネルを通す必要があった。物語はその工事を請け負った岩岡組社長とその息子の石原裕次郎を中心に展開する。

結果的に多数の殉職者を出すことになるこの工事であるが、サイコパス気味の社長とインテリの息子の半目、湧水、落盤など感情が突き動かされてしまう。そして戦前に行われた黒部第3発電所デスマーチも随所に挟まれて胸が苦しくなるのである。

工事を監督する関電の責任者を三船敏郎が演じるわけだが、関西の電力需要に応えなくてはいけないという想いと、犠牲者は出すまいという信念との間に板挟みになるのだ。こういう難しい役をこの人はたくさん演じさせられてきた。そりゃ『七人の侍』、『隠し砦の三悪人』、『用心棒』の三船はかっこいい。しかしこの人を国民的俳優にしたのは本作であったり、『太平洋の嵐』の山口多聞、『日本のいちばん長い日』の阿南惟幾、『連合艦隊司令長官 山本五十六』の山本五十六、『太平洋奇跡の作戦 キスカ』の木村昌福ではなかったか。

あと細かいところでは若き寺尾聰が紅顔の美少年を演じているのが微笑ましい。後年に『西部警察』で「吐けー、このやろぉ!」とチンピラを小突き回す松田刑事になるとは想像もできなかったであろう。西部警察といえば二宮係長こと庄司永建氏も出演しているようだが見つけられなかった。

最後に黒部第4ダムの空撮があるのだが、こんなでかい渓谷にダムを作ろうというのがあまりにもだいそれていると感じるし、実際に171人の殉職者を出したというのもありえることだと思う(飯場の雪崩被害でなくなった人も含めると200人以上亡くなっているという)。このような先人の犠牲があった今の便利な生活があるのだと知らせてくれる重要な映画である。

また311以前は関西電力原発への依存が最も大きかったのも、こういった出来事があったからではないかと勘ぐってしまったのである。

2019年11月5日追記。いまアマゾンプライムでただで見れますな。