さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

『日産vs. ゴーン 支配と暗闘の20年』

昨年11月に金融商品取引法違反容疑などで逮捕され日産会長職を終われ、現在は保釈中のカルロス・ゴーン氏について、長らく自動車業界のジャーナリストをやってきた著者がえがく。

戦前の日産コンツェルンを源流とする日産自動車は、戦後は独裁とクーデターを20年おきに繰り返してきたという。こういうなかでブランドが毀損され、これにバブル崩壊、1997年以降の大不況が追い打ちをかけ倒産寸前となる。ここでルノーとゴーンの登場となるのだが、このあたりの経緯の記述はスリリングで、また日産がルノーにかなりの恩義があることがわかる。

興味深かったのはゴーンが経営者として際立っていた時期、つまり着任から2005年までについての記述である。よく知られているように冷酷なコストカッターなのだが、人材登用についてもかなり気を使っていた模様。例えば社内に独立したキャリアコーチ部隊を置いて人材発掘にあたらせていたという。

あるいは成果主義の導入で、上司が自分の成果を出すために、優秀な部下の将来のキャリア開発を考えずに手元に囲い込んでいることもある。このような人材を埋もれさせないためにチェックする使命も「キャリアコーチ」は持っている。ゴーンは「社員は上司のものではなく、会社のアセットだ」と指示をだした。

2005年にルノーのCEOを兼任するようになってからは、行き過ぎたコストカットの弊害が出てきた様子。部品の品質低下、地場ディーラーとの乖離、EVでトヨタやホンダに遅れをとるなど。しかしリーマンショックによりまた才覚を発揮することになる。危機的な情況で能力を発揮するタイプらしい。

しかしそれもつかの間、あとは会社の私物化からクーデターとなる。最終章はゴーンなきあとに日産と自動車業界のこれからについて書かれているが、門外漢にはこれがなかなか面白かった。EVや車のスマホ化、IOTについての各国の思惑などである。個人的にはここだけでも買う価値があったと思う。