さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

ペキンパーの闇雲にセンチメンタルな一作『砂漠の流れ者』

先日からサム・ペキンパーについて書き始めたわけであるが、『ワイルドバンチ』のような流血が一つの特徴といえるが、必ずしもそれだけではないのだ。


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時代遅れになっていく男たちが主要なテーマであるからして、どうしてもセンチメンタルな要素も入ってくるのである。そして『砂漠の流れ者 ケーブル・ホーグのバラード』は極力暴力を排して、感傷的要素たっぷりで仕上げた一品である。

舞台は西部開拓末期のどこかの砂漠。主人公のケーブル・ホーグ(ジェイソン・ロバーズ)は、仲間二人に騙されて金も水も奪われ、砂漠で一人ぼっちになってしまう。朦朧として砂漠を彷徨ううちに偶然に水源を見つける。一命を取り留めたホーグは、水源を駅馬車の中継基地にするべく融資を求めて街に出る。そこで娼婦のヒルディ(ステラ・スティーブンス)と意気投合し、砂漠の水源で生活をともにする。このロバ-ズとスティーブンスのやり取りが最高である。情感たっぷりに撮り上げる、ペキンパーの視線の優しさに感嘆する。『ワイルドバンチ』とか『ゲッタウェイ』と『わらの犬』といったバイオレンスの極致を描いてきた監督とは思われないのだ。


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しかしこんな蜜月がいつまでも続くわけがない。ヒルディは成功を夢見てサンフランシスコへ行ってしまう。ホーグはそれでも水源での中継基地経営を続け、財をなしていく。

そして最後にヒルディはホーグのもとに戻ってくる、自動車で。自動車にホーグらは驚くのだが、これはもちろん西部劇のヒーローの時代は終わったということを示唆している。そしてあっけない幕切れと賛美の言葉は涙なしには観られない。

主役の二人を中心に全編が感傷に満ちており、ペキンパーらしい暴力はほぼない。そして二人だけでなく、イカサマ牧師、ホーグを騙した悪党(ペキンパーの常連L・Q・ジョーンズが今回もクズっぷりを発揮)など、はぐれものたちを見る目はやはり優しいのだ。この優しさこそがペキンパーの本質だと僕は思っている。