さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

『学力の経済学』

教育の効果についてさまざまな経済学的な研究を紹介する本。世の中にはこんなことを研究してる人もいるんだなあと感心した。

まずは子供を褒美で釣るのはよいか?
結論は結果ではなくインプットにインセンティブを与えるべき。そしてそれは内的インセンティブを失わせることにはならない。
褒めるのは自尊心が高まるから学力に良い影響があるとよくいわれるが、学力が高い結果として自尊心が高まるのであって、逆ではない。
そして褒めるなら結果ではなく、努力をほめる。これはよくいわれることですね。

テレビやゲームはどうか?それらをやめさせても勉強時間は増えない。親またはその代理人が勉強を見てあげることが大事で、なんらかの犠牲をともなう。
学友からの影響、いわゆるピアエフェクトはある。学力のもともと高い人は優秀な友人に良い影響をうけるが、低い層には悪影響。つまり習熟度別学級が有効であり、習熟度別学級は学力の低い層でより有効というエビデンスがる。
また引っ越しは悪友のような負のペアエフェクトから逃れるチャンスだ。

人的投資は小さい時ほど有効。IQよりも非認知能力に良い影響があった。幼児教育は効果が高いというのはもはや明らかなことらしい。
非認知能力にはやり抜く力もふくまれる。非認知能力の貢献ははかりしれないものがある。

少人数学級は学力を上昇させるが、費用対効果は悪い。少人数学級は貧困世帯の子供に特に効果が大きい。
平等な教育は親の学歴や所得による格差を拡大させる。しかし補助金は学力向上に寄与しないという研究がある。
この辺の費用対効果についての議論に日本の財政赤字を持ち出すあたりは、経済学者って残念だなといういつもの感想しかない。日本には財政問題など存在しないので教育につぎこむリソースはまだまだあるんだけどな。

次に教員の付加価値について。ここでいう付加価値とは生徒の学力がどれだけ上がったかの指標である。
付加価値は教員の質の因果効果をとらえるのに極めてバイアスの少ない方法。付加価値の高い教員は、学力を向上させるだけでなく、望まない妊娠の確率を下げる、大学進学率を高めるなどの効果がある。
教員の給与に成果主義をもちこむことにはエビデンスなし。
教員研修もエビデンスなし。
教員免許による教員の質の差はかなり小さい。しかし免許のある教員同士の質の差は大きい。つまり教員免許は質の担保ができていない。しかしこれについては免許がないことによる採用コストが考慮されているかどうかがわからない。採用コストをふくめても免許持たない教員による効用が大きいなら、教員免許が供給制約にならないということで財政支出すればまだまだ子供たちのために良いことができるということだ。

これらを踏まえて日本は教員の質についてのデータが極めて少ないのが課題と締めくくっている。

補論は比較研究のデザインのしかた、バイアスの取り除き方について言及されている。統計が苦手という人にはぜひ読んでいただきたい内容である。

全体としては、こんな教育をすれば子供の将来の収入がこれだけ増えるのでお釣りがくるみたいな話がたくさんでてくるわけだが、典型的なミクロ脳、家計簿脳だなと思う。名目GDPの増えない日本という社会では、だれかの収入が増えたら、だれかの収入が減るだけなので。とはいうものの紹介される個々の研究は面白いものばかりだし、小さいお子さんがいつ人なら価値のある内容だと思う。