さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

ジョン・フォード騎兵隊三部作の三本目『リオグランデの砦』

さて先日の黄色いリボンに続いて騎兵隊三部作いってみよう。

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本日は『リオグランデの砦』である。前2作に比べるとずいぶん暗い内容であり、前作よりもさらにホームドラマ色が強くなっている。
メキシコ国境付近の砦でジョン・ウェイン演じるヨーク少佐は、暴れまわってはメキシコに逃げ込むインディアンに手を焼いていた。
そこへ陸軍士官学校を落第した息子のジェフが志願兵としてやってくる。さらには別居していた妻が、息子を連れ帰るべくやってくる。ヨークとヴィクター・マクラグレンはかつて軍の事情により、夫人の南部の農園を焼き払った過去があるため、ここでぎくしゃくした家族関係を展開しする。そうはいったもやはり家族愛が描かれるのがフォードらしいところ。そしてジェフは一人前の兵士に育っていくのであった。そんな折、ヨークはメキシコ国境を超えてインディアンを討伐する命令を受けるのだが。。。

今回もヴィクター・マクラグレンら騎兵隊員の繰り広げるホモソっぷりが相変わらずで愛らしい。そしてベン・ジョンソンの馬の乗りこなしがすごい。元ロデオチャンピオンであり、スタントとして映画界に入ったので吹き替えなど必要ないのだ。
またウェインの妻を演じるモーリン・オハラの美しさといったないのである。往年のハリウッド・ビューティーはモノクロでこそ映える。

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前2作でみられたウェインの老酋長への表敬訪問は本作ではなく、インディアンはひたすら悪い人たちとして描かれる。そういう時代だったのだと思わなければ理解に苦しむところではある。これもアマゾン・プライム会員ならただで見ることができる。

ジョン・フォード騎兵隊三部作の二本目『黄色いリボン』

さて先日のアパッチ砦に続いて騎兵隊三部作いってみよう。

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本日は『黄色いリボン』である。ストーリーは退役まで残すところ6日となったジョン・ウェイン演じるネイサン中尉を描くものである。
リトルビッグホーンの戦いで第7騎兵隊を破り勢いに乗るインディアンの連合軍の討伐および、駐屯地の司令官の妻と姪を駅馬車の中継地まで送り届けるという任務をネイサン中尉は与えられる。部隊を率いて中継駅に向かうが、途中で1000人規模のインディアンに狙われていることを知り計画の変更を余儀なくされる。数日遅れで中継駅に到着するも、すでに駅は破壊されているのであった。やむなく駐屯地に引き返し、そこで退役の日を迎えることになるのであるが。。。

ジョン・フォードらしく荒野の移動の景色が美しい。また途中で遭遇するバッファローの大群も圧巻である(にせものだろうけど)。そして司令官の姪を演じるジョン・ドリリューの美貌は往年のハリウッドの良さを思い出させてくれる。ドリューをめぐって若い士官たちが争うのも微笑ましく、それを暖かく見守るウェインと中年の下士官たりの視線の優しさにもほっこりするのであった。なお題名の黄色いリボンとは、ドリューのつけている黄色いリボンのことである。軍服とあいまって凛々しさ百倍である。

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こういった軍隊特有の親密感は前作と同様であるし、ウェインの退役にあたって退院から贈り物が渡されるシーンなどじーんとくるのだ。

そして最大の見所は本作が実質的なデビュー作であるベン・ジョンソンである。ガチのロデオチャンプであり、数え切れないほどの西部劇に出演したベン・ジョンソン、本作では単騎斥候に出たところ、インディアンの部隊に発見されて逃走する。このときの身のこなし、手綱さばきがメチャクチャかっこいいのだ。

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すごく特別な作品というわけではないが、ジョン・フォードらしい秀作である。これもアマゾン・プライム会員ならただで見ることができる。

ジョン・フォード騎兵隊三部作『アパッチ砦』

西部劇は1970年ころからジャンルとしては終焉しつつあり、『ソルジャー・ブルー』はその象徴ともいうべき作品であった。

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これからしばらくはそういう楽しくない西部劇のことは忘れて黄金時代の作品について書いていきたい。とりあえずジョン・フォードの騎兵隊三部作から始めよう。これらも神話といって良い作品群である。その一作目は『アパッチ砦』である。

ストーリーはヘンリー・フォンダ演じるサーズデイ中佐が娘とともに辺境の砦に赴任するところから始まる。中佐は功名心の強い男でここで武功をあげて出世しようと目論み、隊員に厳しい訓練、規律を課すのであるが、先任大尉のヨーク(ジョン・ウェイン)らと半目するようになる。ある日、アパッチ族居留地から逃亡したとの情報を受け、サーズデイ中佐は出撃する。インディアンに詳しいヨーク大尉は地形をみて突撃は自殺行為であると上申するがサーズデイは受け入れず、四列縦帯で突進して包囲され全滅してしまうのであった。

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いうまでもなくサーズデイ中佐のモデルは、リトルビッグホーンの戦いで全滅させられたジョージ・カスター将軍である。フォンダはこの嫌味だが、誇り高い軍人を見事に演じきった。まあインディアンをなめきってるところは紋切り型な感じがしなくもないが、自分の娘と若い士官の恋を邪魔するところなどは可愛らしくて良い

ジョン・ウェインは若くてかっこいいものの、印象に残るのはフォンダのほうである。

見どころは砦の生活である。ジョン・フォード組常連のヴィクター・マクラグレン(『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』の監督アンドリュー・V・マクラグレンの父)らのふざけ合いはフォードが好んだ軍隊のホモソーシャリティであり、安定感のある楽しさだ。また男女が正装しての舞踏会はモノクロ映画らしい活力にあふれている。

他にも荒野を騎馬で移動などフォードらしさにあふれるシーン満載で非常に好きな作品なのである。アマゾンプライムビデオにも収録されているのでぜひ見ていただきたい。

ある意味西部劇を終わらせた問題作『ソルジャー・ブルー』

先日はアメリカ先住民に親和的な西部劇『小さな巨人』について紹介した。

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1970年製作の『ソルジャー・ブルー』もベトナム戦争におけるソンミ村虐殺事件への痛烈な批判である。題材は悪名高いサンドクリークの虐殺である。私がこれを初めて見たのは高校生のときで、テレビで深夜に放映していたのをなんとなく見てしまったのだが、本当に胸クソ悪い一作だ。DVDのパッケージには「ラスト15分、けっして目をそらしてはならない」と書いてあるが、はっきり言って初見時は正視にたえなかった。

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ストーリーはシャイアン族とともい暮らしていた白人女性クレスタを騎兵隊が砦まで護送するところから始まる。バフィ・セント・マリーによるオープニングが切ない。

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そこへクレスタの夫であったと思われるシャイアン族の「まだら狼」らが襲撃、騎兵隊は全滅してしまう。クレスタと側衛に出ていたホーナスのみが生き残るのであった。映画はここからえんえんとうぶなホーナスにクレスタが先住民の歴史と文化についてレクチャーする場面が続く。またホーナスの負った傷をインディアン風の薬草で手当してあげるシーンなどもあるうちに、二人は男女の仲になるのであった。バックグランドのまったく異なる二人が惹かれ合っていく姿はとても美しい。


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しかし蜜月は長くは続かない。インディアンに武器を売ろうとする武器密売人と一戦を交えて負傷し動けなくなったホーナスを救うため、クレスタは砦へと向かった。しかし彼女はほぼ丸腰のシャイアンの野営地を騎兵隊が襲撃する計画であることを知り、そのことを伝えるために集落へと戻った。まだら狼は彼女の報せを受け、和平を受け入れることを決意するのであった。

一方、騎兵隊に救出されたホーナスは集落の襲撃に随行するが、戦士などほとんどおらず、女子供老人ばかりの集落を無差別に殺しまくる場面を目撃することとなる。このラスト15分の虐殺シーンが衝撃的だったのであり、西部開拓史の暗黒面がさらされてしまった以上はもはや西部劇はかつての姿ではいられなくなったのである。ソルジャー・ブルーとはもちろん騎兵隊のことである。騎兵隊といえば襲ってくるインディアンをやっつけるかっこいい存在として描かれることが多かったが、そんな時代に終わりを告げたのだ。

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クレスタを演じたキャンディス・バーゲンはコメディエンヌの印象が強いのだが、昔はこんな硬派な美人だったんだなあ。彼女は我らがマックイーンとは『砲艦サンパブロ』で共演しておりここでも普通に美人を演じている。シットコムの人という印象は後世のものだったんだね。

プロインディアン映画の到達点『小さな巨人』

1970年製作の『小さな巨人』はアメリカ先住民の文化を好意的に取り上げる西部劇のひとつの到達点であるとともに、アメリカン・ニューシネマの傑作でもある。

お話は121歳の老人ジャックの昔語りという形で始まる。少年のジャックは平原を家族とともに馬車で移動中にインディアンに襲撃される。彼と姉のみ生き残りそこを通りかかったシャイアン族に保護される。姉は脱走するがジャックはシャイアンとして育てられることになり、「小さな巨人」と名付けられる。

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成長して部族は白人と一戦を交えるが火力に勝る騎兵隊にはかなわずジャックも倒される。しかし白人と判明して保護され牧師の一家に預けられることになる。しかし牧師婦人の色情狂ぶりに絶望して出奔してしまう。

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その後、いかさま師と巡業したり、ガンマン稼業をしたり、スウェーデン娘と結婚して雑貨屋を始めたりと職を転々とする。しかし妻がインディアンに拐われ、捜索のためにカスター将軍率いる騎兵隊に斥候として参加するのであった。そして騎兵隊がシャイアンの集落を襲撃するのに随行したさい、産気づいている娘と出会いそのまま再びシャイアン族のもとへとジャックはもどるのであった。そして物語はシャイアンの虐殺(ウォシタの虐殺)と、有名なリトルビッグホーンの戦いへと向かっていく。

といういったりきたりの長い物語である。主人公のジャックが白人とシャイアン族の間を行き来するのはもちろん白人文化を相対化するためである。そして悪名高いウォシタの虐殺を妙にねちこく描くのは、1968年ベトナム戦争におけるソンミ村虐殺事件への痛烈な批判である。アメリカの正義が疑われ始めた時代にはもはや西部劇もかつての姿ではいられなくなっていたのだ。そして本作と、同年に製作された問題作『ソルジャー・ブルー』はジャンルとしての衰退を決定づけることになるのであった。

監督のアーサー・ペンは西部劇では他に、ポール・ニューマンビリー・ザ・キッドに扮した『左利きの拳銃』が印象深いが、有名なのはやはりアメリカン・ニューシネマの到来を告げた『俺たちに明日はない』であろう。

色っぽすぎる奥さんを演じるフェイ・ダナウェイ『俺たちに明日はない』に続いてペンとのお仕事である。この時期のダナウェイは色っぽすぎてとってもいけないおねいさんである。西部劇ではドク・ホリデイの愛人を演じた『ドク・ホリデイ』が印象的であった。

主人公を演じたダスティン・ホフマンはメジャーデビュー作『卒業』、西部劇ではないがもはや西部劇の時代ではないという強烈なアピールであったアメリカン・ニューシネマの傑作『真夜中のカーボーイ』と脂が乗り始めたころである。本作では色々なキャラを演じさせられるがどれも違和感なくこなしており最初から実力派であったのだなとわかる。本作の後には我らがペキンパー『わらの犬』でナードとマッドサイエンティストを演じ分けているし、『パピヨン』では我らがマックイーンの単なる引き立て役に終わることなく強烈な個性を出している。

アメリカン・ニューシネマ、西部劇の凋落という文脈を抜きにしても面白い作品である。深刻になりかけるとダスティン・ホフマンや養父のチーフ・ダン・ジョージのコミカルなシーンが登場するといった具合に、長いけどしんどくならないように工夫されているのだ。そこがストレートな告発であった『ソルジャー・ブルー』との違いであり、文芸作品としても評価されるゆえんである。

西部劇の終わりを感じさせる『11人のカウボーイ』

今日は1971年製作の『11人のカウボーイ』の話をしよう。もう西部劇はジャンルとしては衰退に向かっていることが明白な時期であり、西部劇のスーパースターであるところのジョン・ウェインが途中で惨殺いうちょっと前ならありえない展開になることで有名な作品だ。まあある種の挽歌西部劇といえよう。

ストーリーは、牧場主のウェインがキャトルドライブのために人手を探すのだが、近くで金鉱が出現したためにカウボーイが集まらない。そこでスリム・ピケンズの勧めで11人の少年を雇うことになる。ウェイン御大の指導のもと少年たちはたくましく成長し、400キロ先の街まで牛たちを運ぶのだ。

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ところが金鉱であぶれた男たちが一行を付け狙い、ついにはジョン・ウェインは殺されてしまう。。。そして少年たちは復讐を誓うのであった。

本作に出演したウェインは、この後も『オレゴン魂』などいくつかの西部劇に出演する。そして1976年の『ラストシューティスト』で死を間近にしたガンマンを演じて亡くなるのである。

本作でウェインを葬るのはブルース・ダーン、酷薄かつ卑劣な人間を演じさせるとこの人の右に出るものはないという名バイプレイヤーだが、今は娘のローラ・ダーンのほうが有名か。

ペキンパー組の常連スリム・ピケンズは、ここでもいい感じのチョイ役を演じている。

少年の中で一番ませているスリムは、若き日のロバート・キャラダインだ。彼はほかの兄弟とともに、1980年代の数少ないまともな西部劇『ロング・ライダーズ』に出演し、ジェシー・ジェームズの仲間であるヤンガー兄弟を演じる。

ペキンパー&マックイーンの『ゲッタウェイ』は銃撃戦満載の逃亡劇ふうな西部劇だった

スティーブ・マックィーンサム・ペキンパーと『ジュニア・ボナー』で素晴らしい仕事をした。興行的にはふるわなかったが、好事家の評価は高い。

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これに引き続き、これまたアクション映画の金字塔『ゲッタウェイ』でペキンパーとタッグを組むことになった。さらに原作はジム・トンプソン、脚本ウォルター・ヒル、撮影ルシアン・バラードという鉄壁の布陣で面白くならないわけがない。そしてマックイーンにとってプライベートでも転機となる作品であった。

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ストーリーは主人公のドク・マッコイ(マックイーン)が服役しているところから始まる。フィクサーのベニヨン(ベン・ジョンソン、彼がいると西部劇感が増す)の差し金により出獄する。その条件はテキサスのある銀行を襲撃することであった。そして妻のキャロル・マッコイ(アリ・マッグロウ、ある愛の詩の大ヒットでスターとなっていた)と、ベニヨンの送り込んだルディ(見るからに悪そうなおじさんゴッドファーザーにも出てたらしい)とジャクソンとともに銀行強盗を決行する。金を奪うことには成功するが、ルディは独り占めしようとジャクソンを殺してしまう。その意図を察知したドクはルディを撃つ。ドクはベニヨンに金を届けるが、ベニヨンがドクを出獄させるためにキャロルと寝たことをほのめかすに至り、キャロルがベニヨンを射殺する。ここからドクとマッコイの逃避行が始まる。。。

舞台は10970年代のテキサスでありながら、内容はほとんど西部劇である。おっさんたちはみなテンガロンハットにウェスタンブーツだ。マックイーンだけはかつてのフィルム・ノワールの殺し屋のごとくダークスーツに細身のネクタイで決めている。ノワールと西部劇の混淆は昔からあったが、そこに目配せするあたりさすがペキンパーだ。ペキンパーといえばスローモーションだが、序盤のラブシーンからスローモーションを決める。このラブシーンは二人がリアルに恋に落ちていることがわかるくらい真に迫ったものであったという。この経緯については以前に触れたとおりである。

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みどころはもちろんラストのエルパソのホテルでのショットガンぶっぱなしまくりの銃撃戦だが、他にもいろいろある。まず車を運転するのがマックイーンではなく、マッグロウという設定だったのでぎこちないのである。これがまたハラハラさせてくれていい。また一命を取り留めたルディ(見るからに悪そうなおじさんが簡単に死ぬわけない)が獣医に治療させたうえに妻を寝取るという『わらに犬』的な展開を見せるのが微笑ましい。ルディおじさんまさにセックス&ヴァイオレンスだ。これに対比して、釈放の経緯からいがみあいながらも愛を深めていくドクとキャロルが情感をこめて描かれるのである。ここらへんの優しい視線は何度も書いているとおりペキンパーのまた別な側面である。

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ノワール小説の巨匠が原作で暴力の詩人が監督で、アクションスターとして人気絶頂のマックイーンというほぼ完全な組み合わせであるものの、やはりアリ・マッグロウのぎこちなさに物足りなさを感じる部分はある。1994年にウォルター・ヒル脚本でリメイクされているが、こちらもリアル夫婦だったアレック・ボールドウィンキム・ベイシンガーがキャスティングされている。オリジナルにはかなわないもののかなり忠実に再現されており、またベイシンガーはマッグロウよりもだいぶ力強いなど好感がもてる仕上がりとなっている。