さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

ペキンパー&マックイーンの『ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦』

サム・ペキンパー監督の『ジュニア・ボナー』は1970年ころのアリゾナ州を舞台にしており本来の意味での西部劇ではないけど、マックイーンつながりということで取り上げておこう。雰囲気としては『トム・ホーン』』と『砂漠の流れ者』をブレンドした感じかな。

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ロデオ大会で全米各地を転戦するマックイーンは故郷アリゾナに帰ってくる。しかし父が経営していた牧場は兄によって宅地へと変えられようとしている。父と母は別居するようになっていた。こうしてギクシャクする家族だが、再会してみるとやはり家族は良いものだなあとなるのであった。こういうところのペキンパーとルシアン・バラードの描写はとても優しく、寛容だ。

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もう古いものは戻ってこないのだなあという諦念そしてやり切れなさを抱えつつロデオ大会へと向かうマックイーンなのであった。そしてそこにはベン・ジョンソンの荒牛が待ち受けていた。

喧嘩でふっ飛ばされて窓ガラスが割れるところでスローモーションみたいな無駄な演出もなくはないが、ロデオのスローモーションはなかなか哀愁があっていい。マックイーンの両親を演じる名優ロバート・プレストンアイダ・ルピノも最高である。特に母ルピノの夫や息子たちを見つめる視線は穏やかでどこまでも包容力がある。こういうところがペキンパーの真骨頂であり、本作をペキンパーの最高傑作とする人も少なくないのだ。興行的にはいまいちだったようだが。

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マックイーンは盛りをすぎたロデオスターを演じるが、それを恥じるでもなく、また過去の栄華を誇るわけでもないという難しい内面を見事に自分のものにしている。究極のオナニー映画『栄光のル・マン』を撮り終えて、やりきった感があったのだろうか、演技は円熟の境地に達している。これをマックイーンのベスト・ロールに推す人はけっこういる。僕も本作か、『ブリット』か、『タワーリング・インフェルノ』のオハラハンか悩ましいところだ。

ベン・ジョンソンは数え切れないほどの西部劇に出演した名脇役であり、そして本物のロデオチャンピオンだ。ロデオ大会のパレードで見せる乗馬シーンは本作の見所の一つで、このスローモーションも泣けてくるほど美しい。

カウボーイというものがとうの昔に失くなっているもので、彼らの技芸を競うロデオも見世物でしかない。そういう過去への愛惜を過度にメロウにならないように見せてくれるところが良いし、また西部劇という終わっていくジャンルへの鎮魂歌でもあったのだ。