さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

ペキンパー&マックイーンの『ゲッタウェイ』は銃撃戦満載の逃亡劇ふうな西部劇だった

スティーブ・マックィーンサム・ペキンパーと『ジュニア・ボナー』で素晴らしい仕事をした。興行的にはふるわなかったが、好事家の評価は高い。

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これに引き続き、これまたアクション映画の金字塔『ゲッタウェイ』でペキンパーとタッグを組むことになった。さらに原作はジム・トンプソン、脚本ウォルター・ヒル、撮影ルシアン・バラードという鉄壁の布陣で面白くならないわけがない。そしてマックイーンにとってプライベートでも転機となる作品であった。

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ストーリーは主人公のドク・マッコイ(マックイーン)が服役しているところから始まる。フィクサーのベニヨン(ベン・ジョンソン、彼がいると西部劇感が増す)の差し金により出獄する。その条件はテキサスのある銀行を襲撃することであった。そして妻のキャロル・マッコイ(アリ・マッグロウ、ある愛の詩の大ヒットでスターとなっていた)と、ベニヨンの送り込んだルディ(見るからに悪そうなおじさんゴッドファーザーにも出てたらしい)とジャクソンとともに銀行強盗を決行する。金を奪うことには成功するが、ルディは独り占めしようとジャクソンを殺してしまう。その意図を察知したドクはルディを撃つ。ドクはベニヨンに金を届けるが、ベニヨンがドクを出獄させるためにキャロルと寝たことをほのめかすに至り、キャロルがベニヨンを射殺する。ここからドクとマッコイの逃避行が始まる。。。

舞台は10970年代のテキサスでありながら、内容はほとんど西部劇である。おっさんたちはみなテンガロンハットにウェスタンブーツだ。マックイーンだけはかつてのフィルム・ノワールの殺し屋のごとくダークスーツに細身のネクタイで決めている。ノワールと西部劇の混淆は昔からあったが、そこに目配せするあたりさすがペキンパーだ。ペキンパーといえばスローモーションだが、序盤のラブシーンからスローモーションを決める。このラブシーンは二人がリアルに恋に落ちていることがわかるくらい真に迫ったものであったという。この経緯については以前に触れたとおりである。

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みどころはもちろんラストのエルパソのホテルでのショットガンぶっぱなしまくりの銃撃戦だが、他にもいろいろある。まず車を運転するのがマックイーンではなく、マッグロウという設定だったのでぎこちないのである。これがまたハラハラさせてくれていい。また一命を取り留めたルディ(見るからに悪そうなおじさんが簡単に死ぬわけない)が獣医に治療させたうえに妻を寝取るという『わらに犬』的な展開を見せるのが微笑ましい。ルディおじさんまさにセックス&ヴァイオレンスだ。これに対比して、釈放の経緯からいがみあいながらも愛を深めていくドクとキャロルが情感をこめて描かれるのである。ここらへんの優しい視線は何度も書いているとおりペキンパーのまた別な側面である。

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ノワール小説の巨匠が原作で暴力の詩人が監督で、アクションスターとして人気絶頂のマックイーンというほぼ完全な組み合わせであるものの、やはりアリ・マッグロウのぎこちなさに物足りなさを感じる部分はある。1994年にウォルター・ヒル脚本でリメイクされているが、こちらもリアル夫婦だったアレック・ボールドウィンキム・ベイシンガーがキャスティングされている。オリジナルにはかなわないもののかなり忠実に再現されており、またベイシンガーはマッグロウよりもだいぶ力強いなど好感がもてる仕上がりとなっている。