さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

スティーブ・マックィーンの実質的遺作『トム・ホーン』は優れた挽歌西部劇だった

さて前回に続いてスティーブ・マックィーンの西部劇にいきましょう。

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前回は1966年の『ネバダ・スミス』だったが、すでに神話の時代の西部劇と異なりインディアンは敬意を払うべき人々になりつつあった。『トム・ホーン』は1979年の作品で、この10年ちょっとの間にマックイーンは、『ブリット』、『パピヨン』、『タワーリング・インフェルノ』に出演し映画を極めていたが、プライベートでは2度の離婚を経験した。また西部劇というジャンルは時代に呑まれてすっかり変貌していた。スーパースターのジョン・ウェインは『ラスト・シューティスト』という哀しく侘しい作品を最後に亡くなってしまっていた。1970年くらいからヒーローの実像を露悪的に描いたり、残虐性を前面にだすものが増えていた。あるいは挽歌西部劇とよばれる、時代に取り残される男を描く作品もいくつか作られた。『トム・ホーン』はそんな小品であり、マックイーンの実質的な遺作である。

マックイーン演じるトム・ホーンは19世紀末にワイオミング州などで鉄道員、保安官、探偵、牧童などとして活躍した人物で、アパッチ族最後の闘将ジェロニモの降伏の仲介をしたとされる。舞台は晩年の1900年頃で、とある牧場主に用心棒として雇われ、牛泥棒を追い払うことに精を出すという役どころである。馬で牛泥棒を追いかけ回してライフルを撃ちまくる姿は非常にかっこいい。しかし彼を煙たがる人々に濡れ衣を着せられて、、、というストーリーだ。

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彼の雇い主など彼を救おうと尽力する人々もいるが、刑死することを恐れず自分ルールを貫き通すところがかっこよくもあり、哀しくもあるというストーリーだ。もはや開拓時代は終わり、都会風の司法が幅を利かせる時代であり、そこにトム・ホーンのような男には居場所はなかったのである。

みすぼらしい服装をはじめ、極力リアルを追求した力作なのだが、興行的には大失敗だったらしい。マイルールを貫徹する男というより、話の通じない残念な発達気味のおっさんと映ったのかもしれない。マックイーンが製作もつとめ演出の細かいところまでこだわったということだが空回りしたのかもしれない。

個人的にも大好きな作品ではあるのだが、1979年はマックイーンほどのスターをもってしても西部劇は稼げるジャンルではなくなってしまっていた。そしてマックイーンはこの後にあらゆる意味で失敗だった『ハンター』に出演したのち肺がんでこの世を去るのである。

この大好きな作品は、嬉しいことにアマゾン・プライムにも入っている。



私が所有しているのはこちらのDVDボックスである。『ブリット』、『ゲッタウェイ』、『シンシナティ・キッド』も入っているので大変おとくである。