さよなら独身貴族 西部劇編

西部劇、戦争映画、時代劇について書いていくブログ。たまに書評。

『矛盾社会序説』の今更ながらの感想

きもくて金のないおっさん(KKO)界隈の著名人、白饅頭こと御田寺圭さんのデビュー作。

20年後、団塊ジュニア就職氷河期世代がリタイアし始めるころには爆発すること必至のKKO問題について今のうちから知っておくことは悪いことではない。資産も家族もないこのひとたちが働けなくなったり、要介護になったら誰が面倒をみるのか。あるいは、、、

自由に伴侶を選べるということは選ばれない誰かが発生するということだ。1対1で全員をマッチングさせることは無理だが、かつてはドロップアウトする人をできるだけ少なくする構図があった。しかしそれは自由と極めて相性が悪い。そして私たちの社会は自由を選んだ。では選ばれなかった人々は差別されているのではないか?

こうした政治的正しさのもたらす矛盾をメリトクラシーとかわいそうランキングで抑え込んだ結果なにが起こっているかわかりやすく、かつポリティカルコレクトネスに反しないように、切々と語った本だ。まえがきから引用してみる。

「誰かのお世話になったら、今度こそいよいよ世間様に顔向けできなくなる」ーおじさんが洩らしたそのことばに、何も返すことができなかった。それはおじさんがもつ最後の矜持だったのかもしれない。誰の厄介になることもなく、自分はひとりでもしっかり生きていけるのだ、と。
だが、そうした矜持を世間は知っているだろうか。おじさんが世間にむけているほどには、世間はおじさんに視線を注いでいないように思えた。私はそのとき、これまで誰にも顧みられることのなかった、孤独で小さな祈りに触れた気がした。
私はそうした祈りが、誰にも届けられず、伝えられないまま消えていくことを、どうしても受け入れられないようになっていた。いまこの文章を書いている瞬間も、きっとあの街のどこかで、決して振り向かぬ存在にその祈りを捧げているのだと知ってしまったからだ。

本書は19のエッセイで構成されており、それぞれの最後にまとめが付されているためとても読みやすい。またどうでもいいことだが著者にサインをもらった。
f:id:bosszaru21:20190720183751j:plain